0歳から保育園はかわいそう?3歳児神話に国が根拠なしとした理由と研究で分かったこと

「0歳から保育園に預けるのはかわいそうなのか」「3歳までは母親が育てるべきなのか」という疑問に、先に答えます。

「3歳までは母親が家で育てないと、その後の成長に悪影響がある」という考え方について、厚生省(当時)の『厚生白書』平成10年版(1998年)は「三歳児神話には,少なくとも合理的な根拠は認められない」と書きました。米国で1,000人を超える子を生まれたときから追った研究でも、保育を使ったかどうか、何時間か、何歳からかは、母親との愛着の安定と関連していませんでした。関連していたのは、母親の関わりの敏感さです。

ただし同じ研究は、保育の時間が長い子ほど、4歳半の時点で反抗的・攻撃的と評価されやすいという関連も報告しています(大半は正常の範囲)。研究から見えてくるのは、「預けるかどうか」よりも「家庭と保育の両方で、安定して応えてくれる大人がいるか」が問われているということです。

なお、個々の家庭で預けるべきかどうかの判断や、園の選び方は扱いません。発達で気がかりなことがあるときは、自治体の乳幼児健診や保健センターに相談するのが確実です。

0歳から保育園に預けるのは、子どもにとって悪いことなのか

この疑問の奥には、二つの心配があります。早く預けたせいで親子の絆が育たず、将来に響くのではないか。そして、働きたいと思う自分はわがままなのではないか、という気持ちです。

一つ目の心配について、研究が直接調べてきたのは「愛着」です。愛着とは、子どもが不安なときに特定の大人を頼り、安心を取り戻す結びつきのことです。後で詳しく見るとおり、保育の利用そのものと愛着の安定との関連は、大きな追跡研究では見られませんでした。

二つ目の心配については、1998年の白書自身が答えています。白書は、母親が一人で孤立して育児をするよりも、父親や保育所、地域の支えを得て多くの人の手と愛情で育てられるほうが望ましいという趣旨を述べ、大切なのは注がれる愛情の質だとしました(厚生白書 平成10年版 第1編第2章)【記事公開日時点で28年前の資料】。

0〜2歳で保育園に通っている子はどのくらいいるのか

こども家庭庁の「保育所等関連状況取りまとめ(令和7年4月1日)」(2025年8月公表)を使います(こども家庭庁/PDF)【記事公開日時点で約1年前の資料】。

誰を数えたかは、全国の就学前の子ども(総務省の人口推計、2024年10月1日)です。何を数えたかは、保育所・認定こども園・小規模保育などの地域型保育事業を合わせた「保育所等」を利用している子の数で、利用率は「その年齢の利用児童数÷その年齢の就学前児童数」です。

保育所等の利用率(2025年4月1日) 最大は1・2歳児の60.9%、最小は0歳児(本記事の計算)の18.2% 1・2歳児 60.9% 全年齢(就学前) 55.7% 0歳児(本記事の計算) 18.2%
図:保育所等の利用率(2025年4月1日)(出典:こども家庭庁「保育所等関連状況取りまとめ(令和7年4月1日)」)
年齢保育所等利用率(%)
1・2歳児60.9
全年齢(就学前)55.7
0歳児(本記事の計算)18.2

1・2歳児と全年齢の値は同資料 p.4 によります。0歳児の利用率は資料に単独では載っていないため、0歳の利用児童数130,437人(表3)を0歳児童数716,000人(p.4)で割って本記事で計算しました。

1・2歳児の利用率は、2013年の33.9%(同資料のグラフ)から、2025年には60.9%まで上がっています。1・2歳では、保育所等を使う子がいまでは半数を超えています。0歳で使う子は、2割に届きません。

「0歳から預けた子のその後」を、日本全国の公的統計で長く追ったものは、今回調べた範囲では見つかりませんでした。研究としては、後で紹介する3歳までの大規模な調査があります。

「3歳までは母親の手で」はどこから来た考え方なのか

1998年の白書は、三歳児神話を「子どもは三歳までは,常時家庭において母親の手で育てないと,子どものその後の成長に悪影響を及ぼす」という考え方と説明しています(厚生白書 平成10年版 PDF)。

白書の整理では、戦前の日本では大家族や地域の中で子どもが育てられており、「母親は子育てに専念するもの」という考え方が広く行き渡ったのは戦後のことです。三歳児神話は、欧米の母子研究の影響も受けて、1960年代に広まったといわれる、と白書は書いています。

その考え方がどれほど強かったかは、白書が引く調査から分かります。

調査(白書が引用)対象項目賛成(%)
第10回出生動向基本調査(1992年)既婚女性少なくとも子どもが小さいうちは、母親は仕事をもたず家にいるのが望ましい88.1
平成9年度厚生科学研究有識者子どもが3歳になるまでは、母親は育児に専念すべきだ45.2

出典:厚生白書 平成10年版 表2-72・表2-73。賛成は「まったく賛成」「どちらかといえば賛成」の合計(88.1%=47.9%+40.2%、45.2%=16.5%+28.7%)。

当時の欧米の母子研究として広く知られたものの一つに、英国の精神科医ジョン・ボウルビィが世界保健機関(WHO)のためにまとめた報告書『母親による養育と精神衛生(Maternal Care and Mental Health)』(1951年)があります(WHO 所蔵記録)【記事公開日時点で75年前の資料】。この報告書は副題のとおり、家庭を失った子どもの福祉のための国連の計画に向けて書かれたものでした。

さらにさかのぼると、18世紀のルソーは『エミール』(1762年)の第1編で、母親が自分で乳を与えて子を育てることを強く求めたことで知られます(Project Gutenberg 英訳版)。ルソーの教育論の全体は『エミール』の記事で扱いました。

国は三歳児神話をどう判断したのか

白書は、この考え方について「三歳児神話には,少なくとも合理的な根拠は認められない」と書きました(厚生白書 平成10年版 PDF)。

白書は乳幼児期の大切さそのものを否定してはいません。この時期に、人への基本的な信頼感が育つことは認めています。そのうえで、その信頼は母親が常にそばにいることでしか生まれないわけではなく、子育てに必要なのは愛情をもって育てる人がいることで、それは母親以外の人であることもありうる、という立場を取りました(同 第1編第2章)。

預けた子と家で育った子で、愛着に違いは出たのか

米国の国立小児保健発達研究所(NICHD)は1991年から、全米10か所で生まれた子を追う「早期保育研究」を続けました。1997年の論文は、そのうち1,153組の母子を対象に、生後15か月の時点で愛着を調べています(NICHD Early Child Care Research Network 1997 書誌・抄録)【記事公開日時点で29年前の論文】。

結果は次のとおりでした。

調べたこと愛着の安定との関連
保育の質・時間・開始年齢・安定性・種類どれも単独では関連なし
母親の関わりの敏感さ・応答性関連あり
母親の敏感さが低い + 質の低い保育・最小限を超える時間・複数の預け先重なると安定した愛着が少なかった

つまり、保育そのものより家庭での関わり方のほうが愛着と結びついていました。気をつけたいのは三つ目の行です。家庭での関わりが難しい状況に、質の低い保育や長い時間が重なったときには、安定した愛着が少なくなっていました。

2006年に NICHD は、それまでの結果をまとめ、4歳半までの子どもの発達には、保育の経験よりも家庭の特徴のほうが大きく関係していると発表しています(NICHD 2006)【記事公開日時点で20年前の発表】。

日本にも手がかりがあります。環境省のエコチル調査(子どもの健康と環境に関する全国調査)に参加した39,894人を分析した東北大学のチームは、1歳未満から保育施設を使っていた子は、3歳まで使わなかった子に比べ、3歳の時点で、発達の目安を下回る子の割合が、コミュニケーション・粗大運動・微細運動・問題解決・個人社会の5領域すべてで少なかったと報告しました(東北大学 2024年12月/Kanamori ら 2024)【記事公開日時点で約2年前の論文】。発達は保護者が答える質問票で測られ、対象は2011〜2014年に生まれた子です。同じ発表は、家庭での子育てを否定するものではないとも書いています。

長く預けると問題行動が増えるという研究はあるのか

あります。ここが、この記事の見立てに対するいちばん強い反対の考え方です。

NICHD は2003年、生まれてから4歳半までに保育で過ごした時間が長い子ほど、4歳半と幼稚園の時点で、大人から自己主張が強い、言うことを聞かない、攻撃的と評価されやすかったと発表しました(NICHD 2003)【記事公開日時点で23年前の発表】。反対論者の主張ではなく、同じ研究チーム自身の結果です。

その後、同じ子たちを15歳まで追った分析では、乳幼児期の保育時間が長いことと、15歳での衝動性や問題行動の多さとの関連が、その後の母親の敏感さが低い場合に見られたとされています(Burchinal ら 2014)【記事公開日時点で12年前の論文】。

一方で、弱いところもあります。2003年の発表自身が、大半の子の行動は正常の範囲に十分収まっていたと書き、問題行動の予測には保育時間よりも母親の敏感さのほうが役立ったとしています(NICHD 2003)。2004年には、米国心理学会の会長が集めた心理学者たちが、子どもの集団ごとの違いを考えていないことなど、この研究のいくつかの問題点を挙げました(APA Monitor 2004)【記事公開日時点で22年前の記事】。15歳の結果も、後の家庭の関わり方しだいで関連が変わるというものでした。

研究でまだ分かっていないことは何か

まず、原因と結果は分かっていません。NICHD の研究も東北大学の分析も、子どもの様子を追って比べる観察研究です。NICHD 自身、どの保育の経験がどんな影響を持つのかを確かめる設計ではないと断っています(NICHD 2006)。保育を使う家庭と使わない家庭は、収入や働き方などほかの点でも違っており、それをすべて取り除くことはできません。

次に、場面の違いです。NICHD が調べたのは1990年代の米国の、種類もさまざまな保育です。その結果を、保育士の配置基準などが定められた日本のいまの認可保育に、そのまま当てはめられるかは分かっていません。

三つ目に、長い期間の結果です。日本の調査は3歳までで、0歳から預けた子が思春期や大人になってどうかを、日本で大規模に追ったデータは今回調べた範囲では見つかりませんでした。米国の15歳の結果に見られた小さな関連が、その後も残るのか、どれほどの意味を持つのかは、解釈が分かれています。

子どもに要るのは母親なのか、応えてくれる大人なのか

ここまでの研究と歴史を並べると、問いの立て方そのものを見直すことができます。

ボウルビィの報告書が向き合っていたのは、家庭を失った子どもたちでした。毎日家に帰り、夕方と週末を家族と過ごす保育の子どもとは、置かれた場面が違います。家庭から離れて暮らす子についての知見を、昼間だけ家庭の外で過ごす子にそのまま移せるかは、別の問いです。

そして白書の整理では、「母親が子育てに専念する」という形は、日本では戦後に広がったものでした。子どもに何が要るかという問いと、その時代に誰が子育てを担うものとされたかという問いは、重なりながらも別のものです。

研究が一貫して指しているのは、母親という立場よりも、子どもの合図に気づいて応えてくれる大人がいるかどうかです。NICHD の結果で愛着と結びついていたのは「母親が家にいるか」ではなく「関わりの敏感さ」でした。白書が、育てる人は母親以外でもありうるとしたのも、この方向です。「預けるのはかわいそうか」という問いは、「この子のまわりに、安定して応えてくれる大人がいるか。家庭でも保育でも」と立て直すことができます。

子どもの見方そのものが時代とともに変わってきたことは子ども期の歴史の記事で、保育の中身については遊びか早期学習かの記事で扱っています。

預ける・家で見る、それぞれ良いと言われる点と悪いと言われる点は

選択肢良いと言われる点(根拠)悪いと言われる点(根拠)
0〜1歳から保育所等に預ける愛着の安定と保育利用の関連は見られなかった(NICHD 1997)。日本の調査では3歳時点で発達の目安を下回る子が少なかった(Kanamori ら 2024)保育時間が長いほど4歳半で反抗的・攻撃的と評価されやすい関連(NICHD 2003。大半は正常範囲)。質の低い保育や長時間が家庭の難しさと重なると安定した愛着が少なかった(NICHD 1997)
3歳ごろまで家庭で見る預け先が変わる不安定さや長時間の集団生活を避けられる。家庭の関わりは愛着と結びついていた(NICHD 1997)白書は、母親が孤立して一人で育児をするより、多くの人の支えがあるほうが望ましいとした(厚生白書 1998)。家庭で育てた場合に限って有利になるという研究は、今回の範囲では見当たらない

見立てを一つ述べます。0〜2歳で預けること自体が子どもの育ちを損なうという根拠は乏しく、結びつきが見られるのは、家庭での関わりの敏感さのほうで、保育の質は、家庭の状況が難しいときに重なって関わってきます。根拠は、保育そのものでなく母親の敏感さが愛着と関連した NICHD(1997)、家庭の特徴のほうが大きく関係するとした NICHD(2006)、日本の3歳時点の結果(Kanamori ら 2024)、白書(1998)です。

いちばん強い反対の考え方は、長時間の集団保育が問題行動の多さと小さく関連するという NICHD 自身の結果です。強みは、同じ研究チームが報告し、15歳まで条件つきで関連が残ったことです。弱みは、大半の子が正常範囲にあり、母親の敏感さのほうが良い予測になり、因果を示した研究ではないことです。

別の結論になる条件もあります。保育の時間がとても長い、保育の質が低い、預け先がたびたび変わる、家庭でゆっくり関わる余裕がない、といったことが重なる場合には、「預けるかどうか」ではなく「時間と質と家庭の関わり」を気にする理由が研究の中にあります。親が決める範囲と子どもの側の視点については、親の決める範囲の記事でも整理しました。

参考文献

  1. 厚生省『厚生白書(平成10年版)少子社会を考える』1998年。第1編第1部第2章(PDF https://www.mhlw.go.jp/toukei_hakusho/hakusho/kousei/1998/dl/04.pdf /HTML https://www.mhlw.go.jp/www1/wp/wp98/wp98p1c2.html )
  2. こども家庭庁「保育所等関連状況取りまとめ(令和7年4月1日)」2025年8月 https://www.cfa.go.jp/policies/hoiku/torimatome/r7 (PDF https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/b0a8057b-34bf-4c20-84fb-ae592708ca9b/c853cacb/20250828_policies_hoiku_torimatome_r7_01.pdf )
  3. NICHD Early Child Care Research Network (1997). The effects of infant child care on infant-mother attachment security: Results of the NICHD Study of Early Child Care. Child Development, 68(5), 860–879. https://www.rti.org/publication/effects-infant-child-care-infant-mother-attachment-security-results-nichd-study-early
  4. NICHD (2003). Child Care Linked to Assertive, Noncompliant, & Aggressive Behaviors: Vast Majority of Children Within Normal Range. https://www.nichd.nih.gov/newsroom/releases/child_care
  5. NICHD (2006). Family Characteristics Have More Influence on Child Development Than Does Experience in Child Care. https://www.nichd.nih.gov/newsroom/releases/family_characteristics_influence_development
  6. Burchinal, M. R., Vandell, D. L., & Belsky, J. (2014). Is the prediction of adolescent outcomes from early child care moderated by later maternal sensitivity? Developmental Psychology, 50, 542–553. https://fpg.unc.edu/publications/prediction-adolescent-outcomes-early-child-care-moderated-later-maternal-sensitivity (本文 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4718076 )
  7. Kanamori, K., Suzuki, T., Ota, C., & the JECS Group (2024). Group childcare has a positive impact on child development from the Japan Environment and Children’s Study. Scientific Reports, 14. https://doi.org/10.1038/s41598-024-81343-9 (東北大学プレスリリース https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2024/12/press20241209-03-child.html )
  8. APA Monitor on Psychology (2004, October). NICHD study. https://www.apa.org/monitor/oct04/nichd
  9. Bowlby, J. (1951). Maternal Care and Mental Health. World Health Organization Monograph Series No. 2. https://iris.who.int/handle/10665/40724
  10. Rousseau, J.-J. (1762). Emile (B. Foxley, Trans.). Project Gutenberg https://www.gutenberg.org/ebooks/5427

英語の資料は AI が和訳して要約しています。


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