高校無償化で私立はタダになる?所得制限なしの上限45万7,200円と、残る費用

「高校無償化で、私立もタダになるの?」という疑問に、先に答えます。

授業料は、平均的な私立高校ならほぼ全額が国から出ます。ただし「タダ」ではありません。2026年4月から所得制限がなくなり、私立全日制の授業料は年45万7,200円(月3万8,100円)まで支援されます。私立高校の平均授業料(令和6年度 45万7,331円)とほぼ同じ額です。一方、入学料と施設整備費等は支援の外で、初年度は平均で約32万円が残ります(本記事の計算)。修学旅行や通学、学校への納付金といった授業料以外の費用も、在学中ずっと続きます。支援は申請しないと受けられません。

見立ては、私立と公立の費用の差は「なくなった」のではなく、授業料の差から授業料以外の差へ移った、というものです。

私立高校の授業料は、国がいくらまで払うのか

いわゆる「高校無償化」の中心は、「高等学校等就学支援金」という国の制度です。改正法は令和8年(2026年)3月31日に成立し、4月1日に施行されました(文部科学省「高校生等への修学支援」)。文部科学省のQ&Aは、この改正で「所得制限が撤廃され、多くの生徒が授業料の支援を受けることができるようになりました」としています(就学支援金制度に関するQ&A)。

支援の上限は、私立の全日制・定時制が年45万7,200円(月3万8,100円)、私立の通信制が年33万7,200円、公立の全日制が年11万8,800円(月9,900円)です。前の制度と比べると、次のように変わりました。

世帯年収の目安令和2〜7年度(私立全日制)令和8年度から(私立全日制)
590万円未満396,000円457,200円
590万〜910万円未満118,800円457,200円
910万円以上対象外457,200円

出典:文部科学省 第153回初等中等教育分科会 資料1 p.9・p.11、就学支援金制度に関するQ&A。

お金は家庭の口座に入るのではなく、学校の設置者が生徒に代わって受け取り、授業料に充てます(資料1 p.9)。受け取るには申請が必要で、原則として申し込んだ月からの支給です。申請書類は入学予定の高校から配られ、オンライン申請(e-Shien)の仕組みもあります(Q&A)。また、国のリーフレットは対象を「日本人等の生徒」とし、「日本国籍以外の方については、国籍・在留資格等の要件があります」と書いています(令和8年度版リーフレット)。同じリーフレットには、新制度の対象外となる生徒にも別の授業料支援の制度がある、とも書かれています。

私立の平均授業料と比べると、上限は足りているのか

平均で比べれば、ほぼ足りています。文部科学省が都道府県の協力で集計した令和6年度の私立高校(全日制)の授業料は、生徒1人当たり平均45万7,331円でした(令和6年度私立高等学校等初年度授業料等の調査結果【記事公開日時点で約2年前の調査】)。上限の45万7,200円とほぼ同じです。

これは偶然ではありません。国の資料は、私立高校の生徒には「全国授業料平均相当額となる45.7万円」を支給すると整理しています(資料1 p.4)。

ただし、平均は平均です。授業料は学校ごと・地域ごとに上下し、上限を超える学校では差額を家庭が払います。上限を超える学校が全国で何割あるかは、本記事では確かめられませんでした。志望校の授業料は、学校の募集要項で確かめるのが確実です。平均授業料そのものも上がり続けていて、令和元年度の40万4,713円から、令和6年度の45万7,331円まで伸びています(同調査の推移資料)。

入学の年には、授業料のほかにいくらかかるのか

同じ令和6年度の調査で、私立高校(全日制)の初年度に払うお金の平均は次のとおりです。

私立高校(全日制)の初年度納付金の平均(令和6年度) 最大は授業料の457331円、最小は施設整備費等の157232円 授業料 457331円 入学料 165898円 施設整備費等 157232円
図:私立高校(全日制)の初年度納付金の平均(令和6年度)(出典:文部科学省「令和6年度私立高等学校等初年度授業料等の調査結果」)
費目平均額(円)
授業料457,331
入学料165,898
施設整備費等157,232

調査の「計」は78万460円です(3つを足すと78万461円で、1円ずれます)。就学支援金が使えるのは授業料だけなので、入学料と施設整備費等の32万3,130円が支援の外に残ります(本記事の計算)。

もう一つ、見落としやすい出費があります。併願して受かった私立に、入学手続きのために入学金を払うケースです。文部科学省の「子供の学習費調査」は、「入学金」や入学時の施設整備費等に、実際には入学しなかった学校へ納めたものも含めて数えています(令和5年度子供の学習費調査 結果のポイント p.15〜16)。公立に進んだ家庭でも、滑り止めの入学金が家計から出ていることがある、という定義です。

授業料以外で、私立と公立の差が大きいのはどの費用か

ここで使う「子供の学習費調査」は令和5年度(2023年4月〜2024年3月)の調査で、所得制限があった旧制度のもとの数字です(2024年12月公表、2026年1月に訂正版が公表)【記事公開日時点で約2年前の調査】。新制度のもとで家庭が実際にいくら払っているかを示す公的データは、まだありません。

調査は、私立高校(全日制)232校の保護者3,057人、公立高校(全日制)221校の保護者2,775人の回答を集計し、子ども1人当たり1年間に保護者が払った額を出したものです(同資料 p.14)。1年間の学習費の総額は公立59万6,954円、私立117万9,261円でした。

授業料の欄は、旧制度の支援をどう差し引いた額なのかが定義から読み切れないため、本記事では比べません。授業料以外の学校教育費を並べると次のとおりです。

授業料以外の学校教育費の私立と公立の差(令和5年度・本記事の計算) 最大は学校納付金等の91716円、最小はその他の2847円 学校納付金等 91716円 入学金等 62263円 通学関係費 39156円 修学旅行費等 26278円 教科外活動費 13941円 図書・学用品・実習材料費等 11028円 その他 2847円
図:授業料以外の学校教育費の私立と公立の差(令和5年度・本記事の計算)(出典:文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」の値による本記事の計算)
費目公立(円)私立(円)差(円・本記事の計算)
学校納付金等3563012734691716
入学金等180278029062263
通学関係費9763413679039156
修学旅行費等365006277826278
教科外活動費494996344013941
図書・学用品・実習材料費等622847331211028
その他667795242847

出典:同資料 p.10。差は本記事の計算。

授業料以外の学校教育費の合計は、公立30万6,251円、私立55万3,480円で、差は年24万7,229円です(本記事の計算)。差の大きい順に、学校納付金等、入学金等、通学関係費、修学旅行費等が並びます。このうち入学金等は入学の年に払うもので、調査では学年をならした1年あたりの平均に入っています。入学金等を除くと、差は年18万4,966円です(本記事の計算)。前の節の初年度の約32万円と重ねて数えないよう注意が要ります。いずれも全国の平均で、学校によって大きく変わります。

塾や習い事などの学校外活動費は、公立24万5,431円、私立34万6,611円でした。内訳は塾と学校外教育の記事で扱っています。

授業料以外の費用を支える仕組みはあるのか

あります。「高校生等奨学給付金」という、授業料以外の教育費を支える返還不要の給付金です(リーフレット)。教科書費、教材費、学用品費、通学用品費、入学学用品費、教科外活動費などに充てる想定のお金です。

令和8年度は対象を年収490万円の目安まで広げる方針で、国の資料に載っている令和8年度予算案の額は、私立全日制で次のとおりです(資料1 p.14。成立後の確定額は本記事では確かめていません)。

世帯の区分給付額(年・予算案)
住民税非課税(年収270万円未満の目安)152,000円
年収270万〜380万円の目安50,670円
年収380万〜490万円の目安38,000円

年収は、両親の一方が働き、高校生1人(16歳以上)・中学生1人の4人世帯の場合の目安です(同資料)。給付金の対象は低中所得の世帯で、全世帯ではありません。申請先や期限は都道府県ごとに違います。

このほか、授業料や入学金に都道府県が独自に上乗せの支援をしている場合があります。額や条件は地域で大きく違うため、お住まいの都道府県(または学校がある都道府県)で確認してください(Q&A)。

なぜ国は「授業料」だけを無償にするのか

「無償」が授業料を指すという考え方には、長い経緯があります。最高裁は昭和39年の大法廷判決で、義務教育の無償を定めた憲法26条について、無償とは授業料を取らないことの意味だと解しました。この判決は義務教育の「無償」の範囲の記事で詳しく扱っています。高校の就学支援金も、無償の範囲を授業料に置く点で、同じ線の引き方をしている、と読めます。

もう一つの見方を、経済学者ミルトン・フリードマンの1955年の論文「教育における政府の役割」が与えてくれます【記事公開日時点で71年前の論文】。フリードマンは、教育にお金を出すこと(financing)と、学校を運営すること(administration)は「容易に分けられる」と書きました。そのうえで、政府は親に「子ども1人・1年あたり決められた上限額まで、認められた教育に使える券(バウチャー)」を配り、親は「その額に自分のお金を足して、自分で選んだ認められた学校から教育を買える」という形を示しています(再録PDF p.3。英語原文からのAI翻訳)。

就学支援金は、家庭ではなく学校が受け取り、私立・公立を問わず生徒について行く、上限つきのお金です。上限を超える授業料や授業料以外の費用は、家庭が足します。制度がフリードマンに由来すると言えるわけではありませんが、形はよく似ています。

懸念にも重なるところがあります。フリードマン自身、公費で運営する学校が社会に共通の価値を育てるという反対論について「かなりの説得力がある」と認めつつ、それが正しいかは明らかでないとも続けています(同 p.4。AI翻訳)。日本の国の資料にも、論点は同じではありませんが、地方から「公立高校離れや都市部と地方部の地域間格差の拡大などを懸念する声」があること(資料1 p.6)、所得制限をなくすと「高所得世帯では教育費が学習塾や習い事などに流れることで教育格差の拡大につながるのではないか」という指摘があったこと(同 p.4)が記録されています。家庭の教育費と格差の関係は教育格差と文化資本の記事で扱いました。

こう見ると、「私立はタダになるのか」という問いは、「公費は授業料という一部分だけを全員に保障し、残りを家庭に残した。その線の引き方で、学校の選び方と公立の役割はどう変わるのか」と立て直せます。

私立と公立の費用の差は、もう気にしなくてよいのか

見立ては、差は無くなったのではなく、授業料の差から授業料以外の差へ移った、というものです。根拠は三つです。上限が私立の平均授業料とほぼ同じであること。入学の年に入学料と施設整備費等の平均約32万円が支援の外に残ること。在学中の授業料以外の学校教育費に、旧制度下の平均で、入学金等を除いても年約18万円の差があったことです(いずれも本記事の計算)。

いちばん強い反対の考え方は、「差は実質的にほぼ無くなった。費用を理由に私立を外す必要はもう無い」というものです。

この考え方には裏づけがあります。所得制限がなくなり、全世帯が対象になりました。上限は全国平均の授業料に合わせて決められています。授業料以外の費用にも、対象を広げた奨学給付金があり、都道府県の上乗せがある地域もあります。

弱いところもあります。上限は平均に合わせた額なので、平均より高い学校では差額が残ります。入学料と施設整備費等は支援の対象外です。奨学給付金は低中所得の世帯が対象で、全世帯には届きません。

どちらの結論に近いかは、条件で変わります。授業料が上限以下の学校に通い、都道府県の上乗せや奨学給付金の対象にもなる世帯では、「差はほぼ無い」に近づきます。授業料が上限を超える学校、入学時の納付金が高い学校、併願先に入学金を払う場合は、差が大きく残ります。公立と私立のどちらを選ぶかは、ここまでの数字を志望校の募集要項に当てはめて判断する材料になります。中学受験の段階での家計の数字は中学受験をするかどうかの記事にまとめています。

新しい制度について、まだ分かっていないこと

新制度のもとで、私立高校の家庭が実際にいくら払っているかは、まだ公的データがありません。本記事の授業料以外の数字は旧制度下の平均で、制度が変わった後に同じかどうかは分かりません。

授業料が上限の45万7,200円を超える私立高校が全国で何割あるかも、本記事では確かめられていません。

支援が増えたぶん授業料が上がる「便乗値上げ」が起きるかも、これからです。国の資料は、便乗値上げを防ぐ仕組みを設けるとし、所得要件の撤廃や上限額、値上げ抑制の影響、特に地方や公立高校への影響を3年以内に検証するとしています(資料1 p.5)。

公立高校の志願者が全国でどれだけ減るかも、本記事では公的な全国データで確かめられていません。地方からの懸念が国の資料に記録されている、というところまでが確かな範囲です。

参考文献

  1. 文部科学省「高等学校等就学支援金制度に関するQ&A」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/1342600.htm
  2. 文部科学省「高校生等への修学支援」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/index.htm
  3. 文部科学省 リーフレット「令和8年度(2026年度)版 高校生の『授業料支援制度』が新しくなります。」 https://www.mext.go.jp/content/20260616-mxt_shuukyo03-100002595_1.pdf
  4. 文部科学省 第153回初等中等教育分科会 資料1「三党合意に基づく令和8年度以降の高校教育等の振興方策について」2026年1月26日 https://www.mext.go.jp/content/20260126-mxt_syoto02-000046862_02.pdf
  5. 文部科学省「令和6年度私立高等学校等初年度授業料等の調査結果について」2024年12月24日 https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/1412179_00006.htm (推移資料 https://www.mext.go.jp/content/20241224-mxt_sigakujo-000039316_1.pdf )
  6. 文部科学省「令和5年度子供の学習費調査結果のポイント」(訂正版 2026年1月16日) https://www.mext.go.jp/content/20260116-mxt_chousa01-000039333_1.pdf
  7. Friedman, M. (1955). “The Role of Government in Education.” In R. A. Solo (Ed.), Economics and the Public Interest. Rutgers University Press.(再録PDF) https://la.utexas.edu/users/hcleaver/330T/350kPEEFriedmanRoleOfGovttable.pdf
  8. 有斐閣Online「教育を受ける権利と義務教育の無償性の意義」(最大判昭和39年2月26日) https://yuhikaku.com/articles/-/57068

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