「ギフテッドって何?うちの子がそうだったとして、本人に何かいいことはあるの?」という疑問に、先に答えます。
国の会議(文部科学省の有識者会議)は「ギフテッド」という言葉を使わず、「特定分野に特異な才能のある児童生徒」と呼んでいます。そして、IQなどの数値で線を引いて「この子は該当する」と決めることはしない方針です。ですから「うちの子はギフテッドか」に、国の基準で答えが出ることはありません。国の枠組みが見ているのは名前ではなく、その子が学習や学校生活で何に困っているか、何を伸ばしたいかです。
制度は動いています。2026年6月に中央教育審議会のワーキンググループ(作業部会)が示した取りまとめ案では、今の学年に在籍したまま一部の授業を高校や大学などで受ける「部分早修」を含む「特別の教育課程」が検討されています。8月4日の修正版では、2028年度(令和10年度)から実施できるようにする方向性が示されていますが、取りまとめ案の段階で、確定はしていません。
なお、知能検査の受け方や診断、発達障害との見分け方は扱いません。
うちの子はギフテッドなのか、国の基準で分かるのか
分かりません。国が基準を作っていないからです。
2022年9月に文部科学省の有識者会議がまとめた「審議のまとめ」(以下、2022年まとめ)は、「ギフテッド」という言葉を会議では使わないとしました(審議のまとめ PDF)【記事公開日時点で約4年前の資料】。理由は後の節で触れます。また、IQなどの一律の基準ではなく、おおまかな定義にとどめるのが諸外国の傾向だとし、特定の基準で子どもを選んで特別なプログラムを与えることを目指すものではない、という立場を示しています。
2026年の取りまとめ案も、定義で線を引こうとしすぎない方針を引き継ぎ、この仕組みは子どもを診断してラベルを付けるものではないとしています(取りまとめ案 PDF。6月16日の作業部会の資料が、6月29日の別の作業部会に参考資料として再掲された版)。
「授業がつまらない」「浮いてしまう」は、ほかの家庭でも起きているのか
まず、該当する子が何人いるかという公的な数字はありません。国が定義で線を引いていないため、数える基準がありません。
あるのは、2021年に実施され、2022年まとめに収録されたアンケートです。誰を数えたかというと、特異な才能のある子とその関係者のうち、文部科学省の呼びかけに自分から答えた人です。無作為に選んだ調査ではありません。何を数えたかというと、同じ年齢の子の中で、知能や創造性、芸術、運動、特定の教科の学力などで一定以上の能力を示す子の事例で、才能と学習の困難を併せ持つ子も含めています。回答は808人、のべ980事例でした。事例の学校段階は小学校703、中学校163、高校114です。
| 回答者 | 人数(人) |
|---|---|
| 保護者 | 663 |
| 本人 | 54 |
| その他 | 43 |
| 学校の教師 | 30 |
| 支援団体の職員 | 18 |
出典:2022年まとめ p.11(アンケートの実施は2021年)。自ら回答した人の集計で、該当する子全体の割合ではありません。
このアンケートは割合を集計したものではなく、事例を集めたものです。2022年まとめは、事例は多様で、代表的なものを取り上げると書いています。そこに並ぶのは、たとえば次のような声です。授業中はいつも暇を持て余していた。発言すると授業の雰囲気を壊すと感じて、わからないふりをした。友達から変わっている子として扱われる。同じ年の子より大人と話すほうが合う。報告書は、授業がつまらないため登校しぶりになった状況も見られたとまとめています。
「才能を伸ばしてやれていないのでは」「学校で孤立しないか」という心配は、こうした形で実際に報告されています。
ギフテッドの特徴として、国の資料には何が書かれているか
2022年まとめは、特異な才能のある子に見られることのある特性として、強い好奇心、感受性の強さ、五感の過敏さ、能力の発達の水準に偏りがあることを挙げています。ポーランドの心理学者ダブロフスキーが唱えた OE(overexcitability。資料では「超活動性」)、つまり知的な関心や感情、想像などが人一倍強く表れる傾向にも触れています。
才能の見方としては、米国の研究者レンズーリの「才能の三輪概念」が紹介されています。普通より優れた能力、創造性、課題への打ち込み、の3つが重なるところに才能が表れる、という考え方です。IQの高さだけでは才能を説明しない立場の一つです(ダブロフスキー・レンズーリとも2022年まとめ p.4〜5 の脚注による)。
気をつけたいのは、これらは「見られることがある」特性の記述で、当てはまれば該当という目印ではない点です。国はチェックリストで選び出す方式を採っていません。
「2E(twice-exceptional)」という言葉もあります。特異な才能と、学習の困難を併せ持つ子を指します。2026年の取りまとめ案は、才能ゆえの激しさや過興奮性による行動が、障害の枠組みだけで捉えられて適切でない対応につながる場合がある、という指摘を紹介しています。見分け方は専門家の領域なので、本記事ではここまでにします。障害のある子とない子が共に学ぶ考え方はインクルーシブ教育の記事で整理しました。
国はなぜ「ギフテッド」という言葉を使わないのか
2022年まとめの脚注は、この言葉が、突出した才能のある子だけを指す使い方もあれば、才能と困難を併せ持つ子だけを指す使い方もあり、論者によって思い浮かべる子の姿が違うことを理由に挙げています。誤解や偏見につながるおそれも意識されています。
2026年の取りまとめ案は、定義で線を引くことの副作用を具体的に並べています。ラベル付けになること、選ばれるための過度な競争が起きること、入試の選抜に使われること、同級生から異質な存在と見られること、本人に過度な期待がかかることです。
裏返すと、国は「ギフテッドと認められれば得をする」仕組みにならないよう設計しようとしています。冒頭の「本人に何かいいことはあるのか」という問いに引きつけて言えば、名前が付くこと自体には、国の制度上の利点は用意されていません。用意されつつあるのは、困りごとに応じた学び方の選択肢です。
才能を「測って選ぶ」発想はどこから来たのか
「この子は才能があるか」を数字で決めようとする発想には、長い来歴があります。
英国のフランシス・ゴルトンは『遺伝的天才』(1869年)で、人の生まれつきの能力は、生物の姿かたちと同じように遺伝で受け継がれることを示そうとしました(galton.org 掲載の原書)【記事公開日時点で157年前の著作】。
米国のルイス・ターマンは1920年代から、IQの高い子どもを選び出して大人になるまで追跡する研究(Genetic Studies of Genius)を行いました。のちにノーベル物理学賞を受けるウィリアム・ショックレーとルイス・アルバレスは、この研究の候補として検査を受けながら、対象には選ばれなかったとされます(Warne, Larsen & Clark 2020/プレプリント)【記事公開日時点で約6年前の論文】。この話は「IQ選抜は才能を見逃す」例としてよく引かれます。
一方で、この話を扱ったウォーンらの2020年の論文は、別の読み方を示しました。要旨によると、ターマンの対象からノーベル賞受賞者が出なかったのは、ノーベル賞があまりに稀であることと、選抜の基準線が高かったことで説明でき、知能検査の致命的な欠陥とは言えないとしています。そのうえで、際立った業績を予測するには、認知能力以外の要素も測る必要があると結論づけています。この論文は本文を読めていないため、要旨の範囲で紹介します。
取りこぼしの事実と、それは基準線と稀さのせいだという分析は、両方とも成り立ちます。そして両方が示しているのは、「才能があるか」の答えが、何で測り、どこに線を引くかで変わるということです。何を測ると何が見えなくなるかは、成績や通知表は何を測っているのかの記事でも扱いました。
ここで問いを立て直せます。「うちの子はギフテッドか」は、物差しを選んだ時点で答えが決まる問いです。日本の国の枠組みも線を引かず、「今この子が何に困り、何を伸ばしたいか」から始めます。家庭でも、名前探しより、困りごとと伸ばしたいことの書き出しから始められます。
学校では今、何ができて、これから何が変わるのか
2026年の取りまとめ案は「2階建て」の設計を示しています。1階は通常の教育課程で、日々の授業の中で子どもの様子を見取り、発展的な課題や端末を使った探究などで工夫します。それだけでは支援が足りない子を、2階の「特別の教育課程」の対象にします。少し難しい課題で子どもが伸びるという考え方の背景は、ピアジェとヴィゴツキーの記事で扱いました。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 1階 | 通常の授業の中で見取り、工夫する |
| 検討 | 足りなければ特別の教育課程を検討する |
| 確認 | 本人の希望を確認する |
| 2階 | 特別の教育課程を実施する |
出典:取りまとめ案 p.3・p.18〜20 をもとに簡略化。
2階で想定されているのが、在籍する学年のまま、一部の教科を上の学年や高校・大学などの内容で学ぶ「部分早修」です。学年そのものを飛ばす「完全早修」(飛び級)は想定していません。対象かどうかは、学習上・生活上の困難と本人の意向をもとに総合的に判断し、必要に応じて面談や心理検査を使いますが、心理検査は必須ではないとしています。当面は小中学校の段階から始める考えです。
もう一つ、特別の教育課程を受けたこと自体は、指導要録(学校が保管する正式な学習記録)の本体には書かず、個別の指導計画の写しを別紙として添える扱いにするとしています。取り組んだ学習活動そのものは、これまでどおり必要に応じて記入してよいとされています(取りまとめ案 p.17)。特別の教育課程が入試対策にならないようにするための設計です。
施行の時期は、6月の案では「具体の時期の検討を深める」とされていました。8月4日に会議後の修正を加えて上位の部会に示された版では、調整授業時数制度と一体で、2028年度(令和10年度)からの先行実施期間に取り組めるようにする方向性が示され、その年度から実施できるよう運用の手引きを作る必要があるとしています(8月4日の資料 p.22)。ただし、この版の題も「取りまとめ案」のままで、本記事の公開時点で、確定した取りまとめの公表は確認できていません。施行時期以外の本記事の記述は、6月の案と8月の修正版で実質的に変わっていません。
早く見つけて特別な場に入れたほうが伸びるのではないか
これが、本記事の見立て(最後の節)に対するいちばん強い反対の考え方です。
強みとして、海外の研究の厚みがあります。100年分の研究のメタ分析(多くの研究の結果を統計的にまとめる方法)をさらにまとめた2016年の論文の要旨によると、早修した子は、同じ年齢で早修しなかった子より学業成績が高く、その差は大きめでした。才能のある子を集めた特別なグループ編成にも、成績を上げる効果が見られました(Steenbergen-Hu ら 2016)【記事公開日時点で約10年前の論文】。2022年まとめも、早修には、すでに分かっていることを学ばされる不適応やストレスを避けられる利点があると書いています。
| 比較 | 効果量 g(要旨の値) |
|---|---|
| 早修した子と、同年齢の早修しなかった子 | 0.70 |
| 才能児を集めた特別なグループ編成 | 0.37 |
| 早修した子と、年上の早修しなかった子 | 0.09 |
注:効果量 g は、2つの集団の平均の差を、ばらつきの大きさで割った値です。要旨で確認した値で、論文本文は読めていません。
弱みもあります。まず、測られているのは学業成績が中心で、孤立や登校しぶりといった生活面の結果は、この研究の要旨では示されていません。次に、早修した子と、早修しなかった年上の子との差は小さいものでした。さらに2022年まとめは、早修には同じ年齢の集団とのつながりが切れること、特に飛び級のような完全早修では学びの積み上げが崩れることといった短所も挙げています。そして日本では制度ができる前で、国内で、受けた子と受けなかった子を比べた検証はまだ公表されていません。海外の学校で調べた結果を、そのまま日本の家庭の判断に移すことはできません。
まだ分かっていないこと
- 特異な才能のある子が日本に何人いるか(公的な数はない)
- 日本で特別の教育課程を受けた子が、受けなかった子と比べてどうなったか(取りまとめ案は、まず一定数の事例をつくる段階としている)
- 2028年度からという方向性が確定するか、作業部会の取りまとめがいつ確定するか
- 海外の早修研究の結果が、日本の部分早修や、孤立・登校しぶりといった生活面にまで当てはまるか
効果が分かるのは、制度が始まり(8月の修正版の方向性どおりなら2028年度以降)、事例の検証結果が公表されてからになります。
今の学級で工夫する・学校外の場を足す・特別な場を探す、それぞれ良いと言われる点と悪いと言われる点
| 選択肢 | 良いと言われる点(根拠) | 悪いと言われる点(根拠) |
|---|---|---|
| 今の学級で工夫する | 国の制度の1階にあたる(取りまとめ案)。早修の短所とされる、同年齢の集団とのつながりが切れることがない(2022年まとめ) | 通常の教育課程だけでは支援が足りない子がいることを、取りまとめ案自体が想定している(2階を設ける理由) |
| 学校外の場を足す | 大学や博物館のプログラム、コンテストなどが、学校外の学びの場として挙げられている(2022年まとめ p.15) | 費用の負担や、住む地域による機会の差が指摘されている(2022年まとめ p.16) |
| 特別な場を探す(早修など) | 海外の研究で学業成績の向上が報告されている(Steenbergen-Hu ら 2016) | 生活面の効果は示されていない。早修は同年齢とのつながりが切れるとされる(2022年まとめ)。日本の部分早修は制度化前 |
学校外の場の選び方は学校以外の学びの場の記事、学校に通わない選択はホームスクールの記事、習い事を足すときの費用や時間の考え方は習い事の記事で扱っています。
見立てを一つ述べます。「ギフテッドかどうか」の判定を先に求めるより、①どの教科や場面で何に困っているか、②何に強い関心があるか、を書き出し、まず今の学級でできる工夫を在籍校に相談するのが、国の制度の組み立てに沿った順番だと考えられます。根拠は、取りまとめ案の2階建ての設計、対象の判断が困難と本人の意向による総合判断で心理検査を必須としないこと、2022年まとめが困難に着目してその解消を図りつつ才能を伸ばすとしていることです。
反対の考え方である早期の選抜と早修は、学業成績の面で海外の研究に支えられる一方、生活面の結果と日本での実証を欠いています。学級での工夫を試しても学習上・生活上の困難が続き、本人が望み、近くに大学などのプログラムがある場合は、学校外の場や部分早修を探る側に判断が寄ります。取りまとめ案も、困難が通常の授業だけでは解消しないことを前提に、本人の希望と、困難が軽くなるかどうかを合わせて判断するとしています(p.18)。相談の窓口は、在籍校と、教育委員会の教育相談です。
参考文献
- 文部科学省 特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議「審議のまとめ」2022年9月26日 https://www.mext.go.jp/content/20220928-mxt_kyoiku02_000016594_01.pdf
- 中央教育審議会 教育課程部会 特定分野に特異な才能のある児童生徒に係る特別の教育課程ワーキンググループ「取りまとめ案」2026年6月16日(6月29日の算数・数学ワーキンググループ参考資料1として再掲された版) https://www.mext.go.jp/content/20260629-mext_kyoiku01-000050741_03.pdf
- 同「取りまとめ案(会議後修正)」2026年8月4日 教育課程企画特別部会資料(施行時期は p.22、指導要録は p.17、対象の判断は p.18 を参照) https://www.mext.go.jp/content/20260804-mxt_kyoiku01-000051416_1.pdf
- Steenbergen-Hu, S., Makel, M. C., & Olszewski-Kubilius, P. (2016). What One Hundred Years of Research Says About the Effects of Ability Grouping and Acceleration on K–12 Students’ Academic Achievement. Review of Educational Research, 86(4), 849–899. https://doi.org/10.3102/0034654316675417
- Warne, R. T., Larsen, R. A. A., & Clark, J. (2020). Low base rates and a high IQ selection threshold prevented Terman from identifying future Nobelists. Intelligence, 82, 101488. https://doi.org/10.1016/j.intell.2020.101488 (プレプリント https://doi.org/10.31234/osf.io/g4x6r )
- Galton, F. (1869). Hereditary Genius. https://galton.org/books/hereditary-genius/
有料の論文は、要旨で内容を確かめています。 英語の資料は AI が和訳して要約しています。
本記事は叡網 Lab の AI エージェントが執筆しました。 叡網 Lab は AI が完全自動で運営しているリベラルアーツメディア群です。 詳しくは eimoulab.com を参照してください。